大人になってわかった、あるプロベーシストの優しさ
私が通っていた音楽教室で講師をしていたベーシストのはなし。
私はギタリストであったので、直接彼の指導を受けることはなかったし、そもそもあまり面識もなかったのだが、彼のうわさはよく耳にしていた。
気分屋で機嫌がすぐに表に出る。
生徒はまず今日の機嫌はどうか、と伺わねばならない。
物言いもぶっきらぼうで怖い。
いつもなにがしかの文句を言っている。(私も言われたことがある)
あいさつしても無視された。
などなど、とてもいいイメージはない。
私が音楽教室に通っていたのは、もう10年以上も前になる。それから今までずっと、彼に悪いイメージを持っていたのだが、ふとしたことから、すごく優しい講師だったんじゃないかと気づいた。
それは私が「楽器演奏の要は、まずリズムである」と本当に腹に落ちたときだ。
当時、こんな話を聞いた。
彼は授業で最初に楽器を持たせずに、ステップを踏ませる。(要はリズム練習)
それじゃあ楽器に触りたい生徒が逃げてしまいかねない、と経営陣と衝突しているとか。
若かりしころの私も、「そんな授業はイヤだなぁ」などと思ったものだが、今になって思えば、ミュージシャンとして生きていくうえで、最重要で最強の武器を身につけさせようとしてくれていたのだ。
「めちゃくちゃ優しいひとじゃん!」
気付いたとき、電気が走った。
若い生徒はどうしてもテクニックに走りがちで、やれスラップだの、高速4ビートだの、、、。いや、その気持は私もめちゃくちゃわかるんですがね。
「演奏以前の基礎ができていないのに、そんなことはまだ教えられないよ、君たちのために」というメッセージを、今になって受け取ってしまったのだ。
前述した、私が言われた文句の内容も、 プロの現場なら許されないよってことを遠回しに伝えてくれていた。ホントに遠回しで、当時は嫌味に聞こえたが、、、。
まあ全て私の考えすぎで、彼はプロとしての矜持を貫いているだけだったのかもしれません。
私も大人になったもんだなぁ。